「日本製のシュートリーはありませんか?」というご質問を頂くことがあります。知り得る限り、一般的に流通している日本製キーパーはありませんでした。そんな中、R&Dでは長い間、日本の職人による世界最高水準のシュートリーを取扱いたいと熱望し商品企画をしていました。そして、その願いがかない誕生したのが「中田ラスト×サルトレカミエ」です。そこで今回は中田ラストの開発までの軌跡とそのこだわりについて語りたいと思います。

 

《 メイドインジャパン 》

 中田ラストの製造メーカーは、1918年創業の老舗の製造用靴木型メーカー「中田靴木型製作所」。LAST(靴製造用木型)の専業メーカーで立体的なシューラストだけを製造しているその道のスペシャリストです。

 従来の保管用木型メーカーとの違いは、その経験値に裏打ちされた靴木型の製造ノウハウ、知識、そして技術の高さです。第一段階のサンプル作りでカカト部分の絞りと削り込みが完璧でした。実はシュートリー作りで一番難易度が高いのがカカト部分の絞りと立ち上がりの形状です。実際にここで苦労するケースが多い中、さすがにプロ中のプロ、美しい理想的な形状で一発OKでした。

《 メイドインジャパン 》

 その反面、意外と難しかったのが、つま先から甲部分にかけてのバランスや高さ、角度でした。普通のシューキーパーなら気にならないことかもしれませんが、最良質なキーパーを目指しているのでそうもいきません。

 Edward Green、John Lobb、Crocket & Jones、Alden他、様々なメーカーの多様な型番に合うように、何度も調整しました。その甲斐あって、この難しいとされる立体形状の物作りもクリアすることができました。

《 シュートリーに最適な木材とは? 》

 そして中田LASTに使用している木材は、西洋シデというカナダ産のもので、木製のシューラストに使用されている本格派です。

 西洋シデがなぜ木型に適しているか?それは硬質で目が詰まっているので、傷やひび割れが入りにくいことにあります。また、木材は夏場に湿気を吸収し、冬場は乾燥で収縮するのですが、その季節的な個体差が他の木材に比べ極端に少ない、つまり形状がブレないからなのです。

 そんな厳選した木材を職人が一つ一つ手作業で形を整えていき、最後の仕上げのヤスリ掛けは、番手の違う3種類のヤスリを使い別け、きめ細かく丁寧に仕上げるという手の込みようです。

《 「真鍮」の醸し出す本物の輝き 》

 さらに、シュートリー用の金具は、従来のシュートリーに使われているものを専門家に見てもらったところ、おそらく引き出し等に使うノブ等を代用しているのだろうとのことでした。しかしキーパーの最高峰を目指すならば、やはりオリジナルをということになり全てのパーツを金型から起こすことにしました。こちらも老舗金具メーカーさんに最高の品質とデザインを依頼した為、想定していた以上のものになりました。

 完成した金具は、取っ手の部分とネジ部分は掴みやすい形状で、かつ美しさも兼ね備えた六角形。そしてスライド部分の形状とメモリも精密に設計されています。そんな中、一番の難敵だったのが、目には触れない部分ですが、木型に埋め込まれている“ネジ受け”です。埋め込んだネジが上に上がってこないように小さな刻みをいれて、ネジを回して締める際に横の回転に対して動きを止める仕組みを取り入れるなど匠の技と知恵が詰まっています。

 素材は強度が必要なスライド部分以外は、すべて磨き込んだ本真鍮を使用しています。野暮なことを言うようですが、金具だけで一般のシューキーパーが1足買える程のコストになってしまいました。しかし、長く使用しても飽きのこない最高の素材、美しさを最優先し、ようやく完成しました。

《 手作業ゆえの希少性 》

 このような苦労と試行錯誤の末、完成した中田ラストですが、製造がハンドメイドのため月産で約20足程度しかできません。
しかし職人が丹念に仕上げる技術、モノづくりの背景や過程、こだわり抜いた材料(素材)等をご理解いただければその価値をご理解頂けるのではないかと自負しております。

 最後にこの商品の開発に際し、何度も繰り返しサンプルを作って下さった中田靴木型製作所のスタッフの皆様にこの場を借りて心から感謝申し上げるとともに、この日本製のハンドメイドシュートリーを末永くご愛顧して頂けるようにR&Dスタッフ全員で熱く語り、靴を愛する方々に伝えていきたいと思っています。




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